オペレーション 事例集 飲食店運営のヒント

飲食店のマネージメントに必要な【人件費コントロール】のための5つのヒント:生産性編

飲食店経営者にとって人件費のコントロールは超難問

私は23年に渡って飲食店のマネージメントを行ってきましたが、
人件費をコントロールすることが、集客と並んで最も難しいことの一つです。
これを読んで下さっている方も、きっとお悩みなのではないでしょうか。

売上機会の損失が無いように、しっかりと売り上げを立てて欲しい――
でも、無駄な人件費は払いたくない――

至極当然ですし、
そのコントロールが出来ないと、残る利益がどんどん減ることになります。

 

ここでは、実際に私が経験してきた5つの内容をお伝えして、
皆さんが運営していく中での、ヒントになれば幸いです。

 

人件費のヒント

まずそもそもですが――

人件費はどう捉えていますか?

飲食店を運営するにあたり、必要不可欠なコスト

 

よく、F&Lコスト(食材=Food,人件費=Labor)と言われますが、
(業種にもよりますが)原材料費と合わせて60%の基準値を設けて、
判断基準とされることが多い様に思います。

 

が、問題なのは 人件費の中身であることにも、気付いていらっしゃるかと思います。

要は【生産性】です。

 

ヒント1:時給の評価基準

グローバルダイニング(以下GD)という会社をご存知の方も多いのではないでしょうか。
2000年代の初め頃、よくテレビなどでも取材されていました。

GLOBAL-DINING

GDの長谷川社長曰く、この会社が大きく伸びた一番の原因が、
アルバイトの時給の自己申告制の導入だと仰っていました。

 

アルバイトの時給、そして店長になるのでも、自己申告によって、
店舗のチームの皆さんや店長会議で皆さんからの評価を得て、
賛成多数であれば昇給・昇格できる――
その仕組みを作ったのです。

私が在籍していた当時、40店舗ほどあったそれぞれの店舗は、業態も大きく分けて5種、
店舗の規模は様々で、30席ほどのお店から、最大3フロア、300席規模のお店もありました。

GDはテーブル担当制を導入したことでも有名です。

当時はウェイターが担当するテーブルは、個別会計を用いており、
来店されたらお帰りになるまで、全ての責任を持つ。
という、ウェイターのスキルに依存する部分が大きかったのです。

がゆえに、ウェイターのスキル=店舗の評価に直結するので、
優れたスキルを持つ人をどれだけ育成できるか?
が、命運を握ると言っても過言ではありませんでした。

 

【○○が出来たら時給〇〇円】の基準を作る

分かり易い例として、ホールだったら何テーブルを担当できるか?
キッチンだったら、どのポジションを任せられるか?
小さな店舗では、どちらの作業も出来ること――は、時給の大きな判断基準でした。

私はGDのイタリアンの基幹店と言われる、200席オーバーのお店に入ったのですが、
ホールの場合、そこではまず最初に4テーブルの担当からスタートします。
この時の時給が、最低時給です。

そして、6,8と増えていき、きちんと運営できるスキルを身につけている。
と、周りに評価してもらうにしたがって、時給のUP申告をしても、周りから賛成してもらえる。
そういった分かり易さもありました。

ちなみに、その店舗では最大13テーブルを担当する花形セクションがあり、
当時スタート時給が850円(=4テーブル担当)だったのに対し、
そのセクションの時給は、1250円(=13テーブル)という破格さでした。

平均時給が1000円だったのですが、
割ると、850円時給(=4テーブル)の場合は、1テーブル212.5円、
1000円時給(=8テーブル)の場合は、1テーブル125円、
1250円時給(=13テーブル)の場合は、1テーブル96.1円までコストが下がります。

これがお伝えしたかった【生産性】です。

前述のGDの長谷川社長は、テレビの取材でこう語っていました。

『人が人を正しく評価することはできない。
でも、多数決であれば、民主的で誰もが納得できる』

名言だと思いました。

 

成長

 

 

ヒント2:変動する時給の導入

アルバイトリーダーの時給変動制

上記のGDのお話の続きですが、
私が勤務開始した当時、その店舗は11時半オープンの、翌朝5時閉店でした。
その時間帯を三つに分けて、

オープン~17時:早番
17~23時:中番
23~5時:遅番

とし、それぞれにリーダー職をおいて、
そのリーダーたちは、課された予算をクリアすれば、
クリアした比率、例えば予算120%クリアなら時給●00円UPという、
時給変動制が設置されていました。

要はリーダーたちは時間帯別で、チームの面倒を見ながらレベルの底上げをし、
売上というゴールに向かって、皆をまとめていく役割を担っていたのです。

リーダーは基本的に全てアルバイトです。
そして、そのリーダーになれるのも、多数決。
そのリーダーのままで良いのか、毎月多数決で判断されることも、在任中は続きます。

アルバイトに責任を与え、成果を皆で判断され、明確な報酬をもって報いていたのですね。

この仕組みはGD全体ではなく、そのお店の店長が考案した独自の仕組みで、
売り上げを大きく伸ばすきっかけともなりました。

 

【土日祝日】時給の導入

これは、直近のコロナ明けのお話です。

私はある会社で複数店舗の統括をしておりましたが、
ホールはアルバイトスタッフがメインで、
かつ、一部主婦の方もいましたが、学生が殆どでした。

学生は、土日祝日は友人と遊びに行きたくなる、主婦の方は家庭を優先するので、
最も売上が立つ曜日にも関わらず、土日祝日は慢性的に人手不足です。

これは、どの店舗でも概ね同じで、売れるときに売れない売上機会の損失
また、出勤した人への負担が大きく、ミスもクレームも増えるという、
マネージメントをする立場からすれば、やりたくない営業の最たるものでした。

そこで、私は再三本社へ「土日の時給をUPさせて欲しい」とお願いをしていましたが、
勤怠のシステムが時給の変動に対応していないという理由から、導入できずにいました。

 

その後、ようやくシステムの変更で導入に至ったのですが、
この施策で劇的に出勤者が増えたか?というと、実はそうではありません。
やはり、来れない人は来れないのです。

がしかし、出勤している人には、公平感が生まれました。

多忙でも、ヒマでも時給は変わらない。
なら、ヒマな時に入りたい――

その不公平感を無くし、元々土日に入ってくれていた人たちに、
入る理由を付けた――

その背景が大きかった施策でした。

 

生産性の要素は、人件費コントロールに欠かせない

さて、ここまでのまとめは、
人件費のコントロール=無駄を省くという意識だけではなく
まずは生産性という部分に目を向けて欲しいと書いてきました。

結局のところ、個人個人の時間数をどう割り当てるか?よりも、
生産性を上げることに注力することの方が、最優先でやるべき事なのです。

そして、その生産性を上げるのには、どれだけやっても周りと同じ――
ではなく、やればやっただけ見返りがある。という、
誰にとっても同じ明確な基準を設けることこそが、セットで必要です。

例えばですが、2025年6月時点での、都の最低時給は、1163円と定められています。
実際1200円スタートのところが多いですが、例えばホールを3人で運営できていたとしましょう。

1200円×3名で、一時間当たり3600円のコストがかかるとします。
この中の二人が熟練していたとして、一人が新人もしくはスキルが未熟な人と仮定した場合。

もし、熟練の二人だけで、同じ客数を不満にさせることなく、
しっかりと満足度を得てオペレーション出来るのであれば、
時給を1.25倍の1500円にしたとしても、一時間当たり3000円で済みます。

 

逆に新人がいたとしても、能率が良く回転が上がった場合、
客数の分母が上がり、売上が上がります。

前述の13テーブルの花形ウェイターは、何も一回転だけのスキルではなく、
しっかりと複数回転させて、ドライブさせるスキルを持っているからこそ、
花形のセクションを任され、時給を上げられるのです。

 

これは極端な例ですが、
もちろん、新しいスタッフを育成していく必要もありますから、
必要コストでもあります。

生産性は個々の能力と、熟練度がポイントです。
熟練とは経験値であり、長く勤めて貰う必要があります。
仕事が出来る人に長く続けて貰うことは必須です。

 

この章の結論――

時給のダイナミック・プライシング

を、検討してみて下さい。

 

不公平感を味わうとスタッフは離れていく――

スタッフに長く続けて貰うに当たっての、苦い体験談、思い出も書いておきます。

 

以前の職場では、なかなか時給を上げませんでした。
1年やって最大昇給額の幅が50円まで。
と決まっていました。

これには、

「時給を一気に上げてもその時に感じる喜びはすぐになくなり、
徐々に上げる方がモチベーションは保たれる。違う所にメリットを」

と人事から言われましたが、
机上の理論だと思い知らされています。

 

結局1年やってもそんなくらいしか上がらないのか
と気落ちしたスタッフ(特に学生)は、
違う時給の良いところへ移ってしまいます。

なんとか人間関係構築で繋ぎ留めていても、
結局掛け持ちはするから、入る回数は少なくなります。
学生は働く時間が限られているので、
少しでも良い時給の所へ移るのは自明の理なのです。

そして何より、後から入って来たスタッフへ教えたり、
仕事も少し責任が多いことをやっていても、
たった50円しか違わない
と考えると、モチベーションも落ちます。

前の職場で何度も聞いた、アルバイトの意見です。

しかもそれが、都の最低時給更新で、
簡単に全員の時給が増えるのを見ると、
(増やさなければいけないのですが)
モチベーションはダダ下がりになったのです。

本人も増えているのに、素直に喜べないという。
それは自分の仕事の成果による達成感ではなく
仕事が出来ようが出来まいが、みんな上がるから。だという意見です。

こう感じる人ほど、生産性が高いことが多い――
そして、生産性が高い人ほど、離れていく。
という事実が、最も困ったことでした。

不公平感こそが、人が離れていく原因なのです。

 

――後編へ続く

シフトの組み方

飲食店のマネージメントに必要な【人件費コントロール】のための5つのヒント:シフト作成編

 

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