僕が経験した昔の話
昔、僕が店長をしていたレストランで、
凄く素直で、けどちょっとアホ(親しみを込めて)な、
一本気のホールスタッフがいた。
やがて別の道を歩むことになったが、
ひょんなことで彼を思い出し、
当時店長をしていたお店に誘おうと連絡を取った。
「実は地元に帰ろうと思っているんですよね・・」
と、なんとなく歯切れが悪くて気になったけど、
根っからのサービスマンだった彼には、
当時店長をしていたお店は、きっとハマる。
と確信して連絡を取った背景もあって、
「一度お店見に来てよ。間違いなくハマると思うんだよね。」
と言ってお願いした。
数日後、手土産を片手に訪ねて来てくれた彼に、
コンセプトの説明から、怒涛のプレゼンを行うが、
やはり帰省する意志は固いようで、諦めざるを得なかった。
残念だなぁ。という僕に、
「お誘いいただいたんで、顔くらい出さないと。と思って今日は来たんです。」
と、相変わらずな一面を見せながら、
田舎に帰ると決めた背景の話を、ぽつりぽつりと話してくれた。
ミシュラン星付きのフレンチ
にて、彼は働いていた。
客単価当時3~4万円のお店だった。
当然、知識・技術の求められるレベルが高い。
ホールに立つには、かなり努力したようだ。
彼の性格上、それがキツイから辞める。
という訳でないのは分かっていたので、
次の言葉を待った。
「キッチンがお客様の要望に対応してくれないんですよ・・・」
前提として書くが、料理はフルコースのみ。
基本アラカルトはない。
幾つかの例を挙げて説明してくれたが、
例えば料理の提供後に、
知らされていなかったお客様のイレギュラーだったり、
時にはホールのミスも絡んでいたけれど、
何かしら理由があって、来店後に料理の変更が必要な時や、
提供後に作り直しの対応が必要な時に、どれもこれも、
「知るかよ。そっち(ホール)で何とかしろよ」
で終わらされていたとのことだった。
え?お客様に説明できないよね?
と聞いたら、
「はい、なので自分で買い取って作ってもらってました」
絶句した。
ミシュラン星付きのお店である。
このお話は2008年当時だが、
ミシュランガイドが日本で創刊された2007年から、
そのお店は★一つをもらっていた。
今もまだある。★は二つになっている。
当然今は違うだろうけれど。
職人気質のキッチンスタッフは、
自分たちが作っている料理が無ければ、
店が成り立たないと勘違いしている。
憤りを感じた。
けど、その否定する言葉を、彼には投げかけれなかった。
代わりに、
うちの店は正反対にある、お客様に喜んでもらう、
感動してもらうレストランなんだよ。
と言ってみた。事実である。
当時働いていたレストランのテーマは、
【愛と感動のレストラン】だった。
でも彼は結局田舎に帰った。
「地元で気軽に入れるお店やります」
と言って。

その技術が無ければ成り立たないだろう。
と、一方が大きな勘違いをするのではなく、
どちらも欠かせない両輪であることを前提に、
売上は何からもたらされているのか?
を、正しく理解する必要があると思う。
お客様の喜びからもたらされる売上という目的地へ、
キッチンもホールも向かっているのではないだろうか。
彼は今、自分を活かしたサービスを行って、お客様に喜んで貰っているのだろうか。
そうであって欲しいし、きっとそうだと思う。