他業種を営んでいる方が、事業をある程度軌道に乗せた後、次の柱として飲食業界へ参入する――。
これは、飲食業界では本当によくある話です。
飲食業は、比較的参入障壁が低い業界だと言われます。
ですが実際には、
- 物件取得費
- 内装工事
- 厨房設備
- 人件費
- 家具・調度品
- 食材・酒類在庫
など、多額の初期投資と準備が必要です。
特に重要なのが【物件選び】です。
なぜなら、一度契約してしまうと、簡単に場所を変更できないからです。
そして、営業が始まってから、
「厨房が使いづらい」
「席数がもっと欲しい」
「客単価設定が難しい」
と気付いても、まさに後の祭り――ということがあります。
今日は、実際に私が立ち会った居抜き物件の内見事例をもとに、
【異業種から飲食へ参入する時に、物件選びで何を見なければいけないか】
についてお話したいと思います。
ある居抜き物件の事例
「シェフに店を持たせたい」
今回のケースは、車関連の会社を経営しているオーナーのお話です。
懇意にしているシェフに、
「自分のお店を持たせてあげたい」
という想いから、飲食事業への参入を検討していました。
ここまでは、飲食業界では比較的よくある話です。
オーナーは予算条件を提示し、その範囲内でシェフに物件を探してもらっていました。
ですが、今回シェフが見つけてきた物件は、当初想定していた賃料を超えていました。
ただし、その物件は【居抜き】でした。
つまり、
- 基礎工事
- 厨房設備
- 内装
などを活かせる可能性があり、初期投資を抑えられる余地がありました。
そこで、
- オーナー
- シェフ
- 確定しているスタッフ
- 不動産営業
- 施工会社担当
- そして私
の6人で、物件の内見へ向かいました。
1.エリアの考え方
同業態が多いことは悪なのか?
その物件は、
- 賃料:約47万円
- 面積:約62㎡(約19坪)
- 坪単価:約25,000円
という条件。
元々は、やや高単価の和食店でした。
立地は、昔ながらの商店街の中心地。
周辺には高級住宅街もあり、土日祝日は特に人通りが多いエリアでした。
一方で、周辺には同業態の競合店も多い。
一般的には、
「同業態が多い = 食い合う」
と言われます。
ですが私は、必ずしもそうではないと思っています。
差別化できるかが重要
今回の業態は【炭火イタリアン】。
近隣には、
- イタリアン3店舗
- ビストロ2店舗
がありました。
ですが、炭火を前面に打ち出した店舗はありませんでした。
さらに、今回のシェフは、炭火業態での実績がある。
つまり、
「なぜ炭火なのか?」
を、料理として表現できる人でした。
これは大きい。
飲食店は、
“他にない理由”
が作れるかどうかが重要です。
特に、
簡単に真似できないこと
を持っている場合は強い。
私はこの時点で、
「エリアとしては問題ない」
という結論でした。
2.物件で見るべきポイント
今回のレイアウト
今回の物件は、
- カウンター含め19席
- 約19坪
- やや広めの厨房
という構成でした。
実際のレイアウト図面がこちらです。

この図面を見て、私が感じた問題点は以下でした。
- 厨房比率が高すぎる
- 満席率が下がりやすい
- 席数が少ない
です。
厨房が広すぎる問題
一般的に、厨房比率は30〜40%程度が理想と言われます。
ですが、この物件は、スタッフルームまで含めると50%以上を占めていました。
もちろん、厨房は広い方が働きやすい。
ですが、経営視点で見ると、
“客席数が減る”
という問題に直結します。
特に今回のケースでは、
19坪で19席
という状態。
つまり、
「高客単価前提」
の店舗設計になります。
客単価を上げれば、その分だけ来店客数は減ります。
つまり、
“難易度が高い”
のです。
満席率が下がりやすいレイアウト
さらに問題だったのが、席構成でした。
- 個室
- 4名テーブル
- 5席カウンター
という構成。
例えば、
- 2名来店
- 3名来店
が重なると、どうしても空席が生まれやすくなります。
つまり、
“満席になりづらい”
レイアウトだったのです。
飲食店経営では、
【満席率】
が非常に重要です。
席数だけではなく、
「どう埋まるか?」
まで考えなければなりません。
3.レイアウト改善案
19席 → 26席へ
ですが、この問題は改善可能でした。
そこで私が提案したのが、以下のレイアウト変更です。

具体的には、
- トイレ位置変更
- スタッフルーム撤去
- 個室移動
- カウンター延長
- テーブル構成変更
を提案しました。
その結果、
19席 → 26席
まで増席可能という試算になりました。
「満席率」を改善する
今回の改善で重要だったのは、
単純な増席ではありません。
“満席率を上げる”
ことです。
例えば、
- 2名席を増やす
- 可変テーブルを作る
- カウンターを伸ばす
など。
つまり、
「どう埋まるか?」
を重視した改善でした。
4.施工費をどう考えるか
同行していた施工会社にも確認したところ、
- 炭火設備
- ダクト工事
- カウンター施工
まで含め、
約300万円以内
で収まるという試算でした。
もちろん、ここに加えて、
- 家具追加
- 厨房機器
- 物件取得費
などは別途必要になります。
ですが、スケルトン物件から作る場合と比較すると、かなり抑えられていました。
まとめ|物件選びは「運営視点」で見る
飲食店の物件選びで重要なのは、
「この場所で営業できるか?」
ではありません。
本当に大事なのは、
【この場所で、利益を残せるか?】
です。
- 客席数
- 厨房比率
- 満席率
- 導線
- 客単価
これらは全て繋がっています。
そして、良い物件とは、
「見た目が良い物件」
ではなく、
【運営した時に強い物件】
です。
続いて後編では、
- 保証金
- 更新料
- 普通借家と定期借家
- 実質賃料
- 初期投資
- 売上計画
など、契約と数字の部分についてお話したいと思います。
