飲食店の【物件選び】は、開業準備の中でも特に慎重に行わなければならない部分です。
高額な初期費用が掛かることはもとより、一度決めたら簡単には移転できません。
初期投資を抑える方法の一つとして【居抜き物件】という選択肢があります。
居抜き物件は初期費用の部分で魅力的に映りますが、実際のところ【何に注意しなければならないか?】を知っていなければ、その判断も好みと感覚に頼ってしまいます。
しかも、営業が始まってから、
「場所が悪い」
「導線が悪い」
「改修費が思った以上にかかった」
と気付いても、まさに後の祭り――ということがあります。
今日は、これまで新規開業や飲食店運営に携わってきた経験をもとに、
「居抜き物件を見る時に、どこへ注意すべきか?」
を、現場と経営の両視点からお話したいと思います。
居抜き物件のメリットと注意点
最大のメリットは「基礎工事」が残っていること
居抜き物件の最大のメリット。
それは、重飲食に必要な【基礎工事】が残っていることです。
重飲食では、
- ダクト
- グリストラップ
- 耐水・防火工事
など、厨房インフラに大きなお金がかかります。
つまり、これらが既に整っていることは、それだけで大きなコスト削減になります。
これが、居抜き物件最大の魅力です。
特に、
「以前の業態と、これからやる業態が近い」
場合は、かなりスムーズに進めやすくなります。
「軽飲食 → 重飲食」は注意が必要
ただし、ここで気を付けたいことがあります。
それが、
【軽飲食から重飲食への変更】
です。
軽飲食では、
- 強い排気設備
- 厨房区画の防火設備
- グリストラップ
などを必要としないケースが多く、重飲食に必要な厨房インフラが不足していることがあります。
つまり、
「居抜きだから安心」
とは限らないのです。
1.改修の施工費を甘く見ない
厨房区画の変更は特に危険
前述の通り、基礎工事が残っていることは大きなメリットです。
ですが、その厨房区画を大きく変更する場合は注意が必要です。
なぜなら、
“壊すにもお金がかかる”
からです。
実際、居抜きで最も避けたいことの一つが、
【厨房区画を大きく変更すること】
です。
せっかく残っている設備を壊し、
- ダクトを引き直し
- 水回りを変更し
- 厨房区画を再度建築
となると、新規に作るよりも高額になってしまいます。
つまり、居抜きのメリットを自分で潰してしまうことにもなりかねません。
家具・内装変更も大きなコストになる
例えば、
和食 → イタリアン
のように業態変更を行う場合、内装イメージも変わります。
さらに、
- 客単価
- 滞在時間
- 客層
が変われば、
- テーブルサイズ
- 卓間距離(テーブル数)
- 椅子
なども変更が必要になります。
つまり、
「今ある家具をそのまま使えるか?」
も重要な判断基準です。
施工会社と一緒に内見へ行く
改修費をある程度把握するために、内見時におすすめしたいのが、
【施工会社と一緒に内見すること】
です。
良い居抜き物件は、本当にすぐ無くなります。
一度見に行った時に、改修工事の金額が見えないと、
無駄に決断を先延ばしにしてしまうだけとなり、
結果、決断の早い人に権利が移ってしまいます。
不動産は基本、先に手を挙げた者に権利があります。
だからこそ、普段から施工会社と関係性を作っておき、
内見時には一緒に来て貰うことをおすすめします。
2.オペレーション導線を見る
厨房導線は売上にも直結する
物件を見る際、どうしても「立地」や「雰囲気」に目が行きがちです。
ですが、営業が始まると、最終的に重要になるのは【導線】です。
特に厨房内。
業態が変われば、
- 必要機器
- 作業位置
- 人数
- 動き方
も変わります。
つまり、
「今の厨房が、本当に営業に合っているか?」
を見なければなりません。
広すぎる厨房は客席数を減らす
これは意外と見落とされがちです。
例えば、オーナーシェフが営んでいた店舗。
こうしたお店は、厨房がかなり広く設計されていることがあります。
もちろん、現場からすると、厨房は広い方が働きやすい。
ですが経営視点で見ると、
“客席数が減る”
という問題にも繋がります。
つまり、
厨房が広い = 正解
ではありません。
「売上が減る要因がないか?」で見る
導線を見る時に大事なのは、
「この店舗に、売上を減らす要因がないか?」
という視点です。
例えば、
- 無駄なスペース
- 動きづらい導線
- 客席数不足
など。
このバランスは、
- キッチン視点
- マネージャー視点
- 経営者視点
全てが必要になります。
3.厨房機器は“寿命”で考える
造作譲渡料の落とし穴
居抜き物件では、
【造作譲渡】
という形で、
- 厨房機器
- 内装
- 造作物
をそのまま引き継ぐケースがほぼです。
ですが、その際に発生するのが、
【造作譲渡料】
です。
つまり、
「設備を買い取ってください」
という費用です。
これが、なかなか難しい。
「今使える」と「今後使える」は違う
例えば、
- 冷蔵庫
- 冷凍庫
- 製氷機
などの業務用機器。
一般的な耐用年数は、
6〜10年程度
と言われています。
つまり、
「今動いている」
と、
「今後も安心して使える」
は別問題です。
導入年数が分かる場合は、必ず確認した方が良いです。
冷蔵・冷凍設備は先に替えるのも手
もちろん、
- 機器状態
- 造作譲渡料
- 予算
にもよります。
ですが個人的には、
【冷蔵・冷凍設備だけは先に買い替える】
という判断もおすすめしています。
営業中に止まった時のリスクが大きすぎるからです。
電源を落とすとなぜか動かなくなる。
ちなみに、【居抜きあるある】なのですが、
特に冷蔵冷凍庫は本来ずっと稼働し続けているものですが、
閉店後に一度電源を落としたあと、再び誰かが買い取って稼働させるまでのあいだに、
故障していることがあります。
そんなケースもありますので、電源が落ちている場合は、
一度稼働させて確認することも必要です。
造作譲渡料は交渉できることもある
ちなみに、造作譲渡料は交渉次第で変わることもあります。
なぜなら、前の借主は、
【原状回復をせずに出たい】
と考えているケースが多いからです。
原状回復には高額な費用がかかります。
つまり、
「そのまま引き継いでもらえるならありがたい」
という事情もあるのです。
ただし、
「ここなら次もすぐ借り手が付く」
という人気立地では、強気な価格設定になることもあります。
契約終了時期が近付くと条件が変わることもありますので、タイミングを見ながら交渉することも大切です。
4.立地は“その場の印象”で決めない
良い立地の居抜きは市場に出にくい
正直に言うと、
一般的に「良い立地」と言われる居抜き物件は、ほとんど市場に出てきません。
公開前に、
- 横の繋がり
- 業界ネットワーク
などで決まってしまうことが多いからです。
でも「市場に出ている = ダメ物件」ではない
とはいえ、
「市場に出ている物件 = 外れ」
という訳ではありません。
実際、それまで見向きもされなかった場所で繁盛店を作っている人もいます。
ですが、そういうお店には共通点があります。
それは、
【他にないこと】
をやっていることです。
「なぜ撤退したのか?」を考える
居抜き物件とは、
【誰かが撤退した場所】
です。
もちろん、
- 運営事情
- 人材不足
- 環境変化
など、理由は様々です。
ですが、
「なぜ続かなかったのか?」
は、必ず考えるべきです。
曜日と時間帯を変えて立ってみる
おすすめなのは、
- 平日昼
- 平日夜
- 土日
- 雨の日
など、色々な時間帯・曜日に実際に現地へ立つことです。
さらに、近隣店舗へ挨拶し、
「以前のお店は、なぜ撤退されたんですか?」
と聞いてみるのも、非常に参考になります。
物件選びは、
“その瞬間の印象”
だけで決めてはいけません。
まとめ|居抜き物件は「運営視点」で見る
居抜き物件は、確かに大きなメリットがあります。
ですが、
「初期費用が安い」
だけで判断すると、後から大きな問題が発生します。
重要なのは、
- 改修費
- 導線
- 機器寿命
- 立地
を、
【営業開始後の運営】
まで想像して見ることです。
つまり、物件選びとは、
「不動産を見る」
のではなく、
【その後の運営を見る】
ことなのだと思います。
少しでも参考になれば幸いです。
私共では、物件選定の際のお手伝いも行っております。
この物件はやりたいコンセプト、業態に合致しているか?
の意見を聞いてみたいときは、是非お声がけください。
