前編では、
【立地】【レイアウト】【導線】【席数】など、
物件そのものを見る視点についてお話しました。
後編では、実際に契約する際の注意点と、
飲食店経営において避けて通れない【数字】についてお話します。
飲食店は、“始める”ことは比較的できてしまいます。
しかし――
“続ける”ことが難しい。
だからこそ、契約前の数字確認が重要なのです。
3.物件取得初期費用の注意点
物件取得費には何が含まれるのか
一般的に、飲食店の物件取得費には以下がかかります。
- 保証金
- 仲介手数料
- 賃貸保証
そして、合わせて考えておかなければならないのが、
- 更新料
- 解約時償却
です。
飲食店は、物件を借りる時点で、かなり大きなお金が動きます。
「家賃だけ見て判断する」
これが一番危険です。
1.保証金
規模や立地によりますが、都心部では、
【賃料の12ヶ月分】
という保証金を設定しているケースもあります。
一般的に、
- 駅近
- 人気エリア
- 人通りが強い場所
ほど保証金は高くなる傾向があります。
逆に、
- 駅から距離がある
- 小規模
- 空中階
などは、比較的低くなることがあります。
例えば3ヶ月程度のケースもあります。
大切なのは、
【そのエリアの相場と比較すること】
です。
保証金だけが極端に高い物件は、慎重に判断した方が良いでしょう。
2.仲介手数料
これは比較的シンプルです。
一般的には、
【賃料1ヶ月分+消費税】
です。
ほぼどこの不動産会社でも共通です。
3.賃貸保証
以前は、連帯保証人を立てるのが一般的でした。
しかし昨今は、
- 高齢化
- 死亡リスク
- 回収リスク
などの背景から、保証会社を利用するケースが一般的になっています。
これも通常、
【賃料1ヶ月分前後】
が初期費用として必要になります。
さらに、更新時にも費用が発生します。
実際、このケースではどうだったか
この案件では、
保証金が約400万円。
賃料約47万円に対して、約8.5ヶ月分です。
さらに、
- 仲介手数料
- 賃貸保証
を加えると、
実質的には【賃料10.5ヶ月分】ほどが、初期段階で必要となる計算でした。
これは、かなり高めです。
4.更新料と契約形態
普通借家か、定期借家か
ここは、必ず確認してください。
飲食店契約において、とても重要です。
簡単に説明すると、
普通借家
家主側から簡単に退去させられない契約。
一般的に、
2〜3年更新が多いです。
定期借家
契約期間終了で退去できる契約。
つまり、家主側が、
「一定期間だけ貸したい」
という意向を持っているケースです。
ただし、定期借家だから悪いという訳ではありません。
中には、
- 10年契約
- 再契約相談可
という良い条件もあります。
ちなみに、僕が通っている美容室は、10年の定期借家契約でした。
更新料も「実質家賃」に含める
例えば今回のケース。
家賃は約47万円。
普通借家2年契約で、更新料が1ヶ月分だとすると、
47万円 ÷ 24ヶ月 = 約2万円
つまり、
毎月約2万円を積み立てている感覚
で考えなければなりません。
さらに保証更新料なども加味すると、
実質賃料は、約51〜52万円。
ここまで含めて、初めて“本当の固定費”になります。
注意すべき「更新不可」
定期借家には、
- 再契約可能
- 更新不可
があります。
特に危険なのが、
【更新不可】
です。
例えば、
- 建物取り壊し予定
- 再開発予定
など。
飲食店は初期投資が大きいので、
「投資回収前に退去」
となると、かなり厳しい。
契約前に、
- 契約年数
- 更新条件
- 建物計画
は、必ず確認しましょう。
5.解約時償却
保証金は全額返ってこない
閉店のことは、なるべく考えたくありません。
ですが、いつか必ず、
「お店を閉める日」
は来ます。
その時、最初に預けた保証金。
これは全額返ってくる訳ではありません。
契約内容によりますが、
最初から差し引かれるのが【償却】です。
償却は何ヶ月か確認する
感覚としては、
- 1ヶ月 → 良心的
- 2ヶ月 → 一般的
- 3ヶ月以上 → やや重い
という印象です。
飲食店は補修箇所も多いため、ある程度は致し方ない部分でもあります。
ただし、
「何ヶ月償却されるか」
は必ず確認しておきましょう。
スケルトン返しは要注意
さらに、契約内容で要注意なのが、
【退去時スケルトン返し】
です。
つまり、
全部壊して返してください
という契約。
これはかなり重い。
重飲食の場合、原状復帰費用は、
【坪10万円以上】
かかるケースも珍しくありません。
20坪なら、200万円以上。
つまり、
“出る時にも大きなお金が必要”
ということです。
4.家賃に対する売上の考え方
家賃を何日で稼ぐのか?
内見時、僕はシェフへ質問しました。
「家賃を何日で稼ぐつもりですか?」
これは飲食店経営の、かなり重要な考え方です。
一般的には、
- 3日で家賃回収 → 標準
- 2日 → 優秀
と言われます。
つまり、
【その日商を、どうやって作るか】
を逆算する必要があります。
経営経験の差が出る瞬間
今回のシェフは、料理人としての実績は十分ありました。
ですが、経営経験はありませんでした。
そのため、
「……1日?……ですかね……」
という回答。
僕は、
『お〜、それならドル箱ですね』
と返しましたが、内心では、
(本当に可能なのか?)
と思っていました。
すると、そこでオーナーが、
「2.5日で考えています」
と即答。
かなり現実的な数字感覚でした。
相談できる人がいるか
異業種から参入される方で、ここまで数字感覚を持っている人は少ないです。
そこで、
『どなたか相談されている方いますか?』
と聞くと、
懇意にしている蕎麦屋の大将がいて、色々教わっているとのことでした。
これは非常に大事です。
異業種参入の場合、
【相談相手がいるか】
で、大きく変わります。
できれば、
- 同業態
- 実績がある
- 現場を知っている
人が理想です。
ランチとディナー
この案件では、
最初はランチ営業をせず、ディナーに集中する
という方向性でした。
理由としては、
- 人員
- 労働時間
- オペレーション負荷
など。
判断として正しいかは、やってみなければ分かりません。
ですが、
「そうせざるを得ない」
という現実もあります。
数字を売上目標へ落とし込む
実際に必要な売上は?
今回のケースでは、
実質賃料:約52万円。
これを2.5日で回収すると、
必要日商は約21万円。
席数26席。
満席率80%で21席稼働。
客単価1万円。
これで、ようやく届く数字です。
それが毎日続くのか?
問題はここです。
週末だけなら、まだ可能性はあります。
ですが、
“毎日”
となると、一気に難易度が上がります。
しかも今回は、
ディナー営業中心。
かなりハードです。
満席率75%で優秀
ちなみに飲食店では、
【満席率75%】
でかなり優秀です。
65%を切ると、厳しくなるケースが多い。
つまり、
毎日16〜17席を埋め続ける
というのは、かなり難しい。
だからこそ、
「ランチも必要では?」
という結論に繋がっていきます。
5.最後は覚悟
このケースの初期費用
今回のケースをまとめると、
物件取得費
- 保証金:約400万円
- 仲介手数料:約52万円
- 賃貸保証:約47万円
改装費
- 改装:約300万円
- 家具関連:約60万円
- 厨房機器:約300万円想定
営業開始準備
- 食材・ワイン等:約150万円
- 保険・予約システム等:約30万円
合計すると、
約1350万円前後。
さらに、ここに人件費が乗ります。
飲食店は「覚悟」が必要
ちなみに僕が以前、27坪・32席の店舗をスケルトンから立ち上げた際は、
総額約2700万円
かかりました。
今回のケースは、居抜きだったことで、かなり抑えられていたのです。
それでも、1000万円単位。
飲食店とは、それだけお金が動く業界です。
まとめ|最後は「数字への執着」
ここまで、かなり現実的な話を書いてきました。
ですが最終的には、
「達成できるか?」
ではなく、
【達成するために、どこまで執着できるか】
だと思っています。
飲食店は参入障壁が低いため、
“セカンドビジネス”
として考える方も多いです。
ですが、撤退した人達からよく聞く言葉があります。
「甘くはなかった」
です。
ちなみに今回のオーナーさんは、多方面から検討した結果、
【出店見送り】
という判断になりました。
ですが僕は、それもまた、優れた経営判断だったと思っています。
少しでも参考になれば幸いです。


