料理の説明がもたらすもの
飲食店でお料理を提供する際に、料理の説明は行っていますか?
人は五感で料理を楽しむと言いますが、
味覚・触覚(歯ごたえや舌触り)・嗅覚・視覚は勿論イメージが付くと思います。
が、「聴覚」は、なんでしょう?
シズル感の一つに「音」があります。
例えばジュージュー焼けている音などですね。
ですが私は、「人の言葉こそが、大きく味に影響する」と思っています。
料理の説明こそが、お客様満足度の向上に大きく影響していることを肌身をもって感じています。
いわゆる「プレゼン」能力なのですが、
実はこのプレゼンにも上手い下手があります。
今日は、料理提供の際に行うべき「ポイント」をお伝えしたいと思います。
01 | 簡潔であること。
お料理は提供と共にどんどん劣化していきます。
なるべく早くお口に運んで頂きたい――
全ての料理人が思う事でしょう。
ですので、長々と話をするのは受け入れられないと思います。
お客様側としても、例えば会話途中に料理提供があると、
会話を一度中断しなければならないことから、
お客様にとっても、長々と話されるのも嫌なはずです。
また、これは良くない事なのですが、
そういった空気を読んで(?)スタッフは遠慮して説明を怠りがちです。
大事なのは、
長々と話をしない――
簡潔であることは重要です。
02 | 背景を噛み砕く。
それぞれの料理や飲料には、それぞれの背景があります。
食材・産地・管理方法・調理法・提供方法・作り手の理念や考え方・・・
様々な背景から、成り立っています。
一つ一つ、噛み砕きながら理解していきます。
例えば食材でも、とれた産地によって変わってくるのは勿論、
それをどのように処理するかもまた、影響していきます。
要は、店舗(厨房)の中だけではなく、
産地から、ひいては生産者から始まっているのです。
それらを、「物語」にしてみましょう。
一つの料理(飲料)が、素材から提供されるまでの過程を、物語にしてみる――
要は「作文」能力です。
これができるかどうかで、背景が噛み砕けたか?の指標になります。
曖昧な部分は無いか?――
あれば、その曖昧な部分を更に突き詰めて、言葉にしていきます。
03 | 選択する。
物語に出来れば、ゴールは目前です。
次に行うのは「伝えるべき情報の選択」です。
と書きますと、何を伝えるか?
を考えがちですが、私は逆のアプローチをします。
すなわち、「捨てる情報を選ぶ」のが、私のやり方です。
物語が出来ると、あれもこれも伝えたくなります。
しかし、それぞれを網羅して、全てを伝えることは、不可能です。
無理やり言ったとて、当然相手が途中で聞き飽きて頭に入って来ません。
捨てる情報を選び、どうしても残しておきたい情報だけを抜粋する――
そうして文章にしていきます。
では、物語は不要ではないか?
と考えられるかもしれませんが、必要です。理由は後述します。
また全てを把握しているのと、そうでないのとでは、説得力に違いが出てきます。
ですので、是非物語にすることをお勧めします。
04 | リアクションが取れるか?を探す。
最終的に、出来上がった文章が良いものかどうか?
を判断する指標は、私の場合は
- なるほど!
- へー!
のリアクションが取れることです。
プレゼンとは、これから味わって(経験して)もらう内容への
「期待感を増させる」ことが、一番の狙いです。
上の「なるほど!」は、正しく味わって頂くためのHow toです。
「へー!」は、新しい発見です。
どちらも、口にする前に、既に「美味しい!」を脳内に作ることが大事だと思っています。
その達成度が、リアクションとして表れると思っています。
05 | イメージを膨らませ、満足度を深める。
過去の記事で、こう書きました。
芸術作品は手引きがあると汲み取れる
例えば美術館や、博物館などに行かれた時に、
よくある「音声ガイド」はご利用になられますか?音声ガイドによる説明は様々ですが、観ただけで感動できる部分と、
言葉の手引きによって感動できる部分には大きく隔たりがあると、個人的には感じています。その背景や技術的なことなど、普段からその世界に触れている専門家やファンはともかく、
概ね玄人に程遠い人達にとっては、説明がないと気付けないことが、
音声ガイドを利用することによって、より理解を深められた――そんな経験がある人もいるのではないでしょうか。
お客様の幸せで楽しい時間を演出できるかどうかは飲食店の総合力ですが、
言葉によって、お客様のイメージを膨らませ、満足度を更に深めます。
例:ある飲食店のアイテムで説明文を作成してみます。
以下は、私がお手伝いさせて頂いたお店の例です。
鮮魚の〇〇ソースです
こちらのお店のカルパッチョは、真鯛の産地として有名な〇〇産の真鯛を使用しています。
釣り上げた漁船は〇〇丸で、こちらの漁師さんの特徴は、釣った直後に船上で独自の神経締めを行い、
脳死状態の魚を酸素濃度の高い海水に入れることで、まだ動いている自身の心臓をポンプにして、自らで血抜きを行わさせます。そうすることによって、魚にストレスがかからず、魚の身が硬くなるのを防ぎ、旨味成分のもとであるATPの減少を防ぎ、生臭さを軽減できます。
帰港後すぐに店舗へ直送してもらっており、釣り上げた翌日にはお店へ届いています。
身の新鮮さ、食感を楽しんで欲しいので、魚に一切の下味をしていません。
ですので、下にある〇〇ソースと共にお楽しみ頂きたいと思います。こちらのソースは、〇〇をベースにして、〇〇や、〇〇を加えることによって、
五つの味を表現した味わい深いソースになっておりますので、よく絡めて頂くか、
スプーンで一緒にすくってお召し上がりくださいませ。
物語を作ると、全文はこのような形になりました。
文字数にして422文字です。
スピーチの文字数と時間は、一般的に300文字~400文字程度で1分~1分半程度と言われています。
アナウンサーが話すスピードは、1分間に300文字が基準とされています。
では、1分半もの間、料理説明に聞き入ってもらえるか?
――恐らく大半のお客様が難しいでしょう。
これを、捨てる情報を選び、まとめたのが以下です。
鮮魚の〇〇ソースです。
本日のお魚は〇〇産の真鯛です。
釣った後、船上で独自の神経締めを行い、新鮮な状態を保ったまま、帰港後すぐに直送頂き、釣り上げた翌日には当店に届いています。
(へー!)身の新鮮さと食感を楽しんで頂きたいので、一切の下味をつけておりません。
下にございます〇〇と〇〇のソースと一緒に、スプーンですくってお召し上がりくださいませ。
(なるほど!)
これで、163文字まで減らしました。
ゆっくり説明したとしても、30秒少しです。
これでも長いと感じる方がいるかも知れません。
ただ、作った言葉をそのまま言うかどうか、はたまた短くするのか、
長くすることが出来るかどうか、お客様のリアクションを見ながら、感じ、調整するのはライブです。
これには経験値も必要でしょう。
しかし、この最も長い「物語」と、最も短い「文章」の両方を知っておかなければ、
調整することもできません。
また食後に料理に対しての感想やリアクションがあった際に、付け加えて説明することもできます。
そこからさらに、なるほど!と、へー!を引き出すことが出来ます。
短くするのは、早く料理に手を付けて欲しいのもありますが、
全てを伝えるのではなく、小出しにすることでさらに満足度を高めることが出来るという利点もあります。
まとめ:プレゼン上手とは
相手(お客様)へ、「なるほど!」と、「へー!」という発見を与えられること。
それぞれのアイテムに、それぞれの物語。
背景を知らなければ、言葉に感情が乗りません。
だからこそ、物語は必要なのです。
名だたるシェフが産地へ足を運ぶのも、
そういった背景を汲み取って、知識を増やして、
自分の表現を更に深いものにしたいから――
などという理由があるように、
サービスもアウトプットであるプレゼンを磨いていくべきだと思います。
そして、プレゼン上手に更に必要なのは、
語り口調や明朗さ、声の笑顔など、まだまだ気にかけることはありますが、
私は大前提でこの物語を紡ぐことによって、背景を会得したという自信が出来ることを一番の糧と思っています。
裏打ちされた自信こそが、声色や説明に反映されるという事ですね。
私が料理説明の教育やコンサルなどを行うとき、
以上の手法をもって、お手伝いさせて頂いております。
是非、試してみてはいかがでしょうか。
私共では、「プレゼンテーションのヒント構築」のお手伝いもしております。
ご興味があれば、お話だけでも聞かせて下さい。
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