飲食店経営において、不正は決して他人事ではありません。
私は過去に店長として赴任した店舗で、実際にスタッフによる横領事件を経験しました。
被害額は数百万円。
発覚したときの衝撃はもちろんですが、それ以上に痛感したのは、
「不正は仕組みの隙から生まれる」
という事実でした。
今回は、実際に起きた事例をもとに、不正発見の経緯と再発防止についてお話しします。
売上が減っている
異変に気付いたのは赴任して数週間後のことでした。
営業中、POSシステムの売上を確認していた際、
15分ほど前に確認した数字よりも売上が約1万円減っていたのです。
売上が減るということは、
何らかの商品が取り消されたということです。
しかし、そのような報告は現場から上がっていませんでした。
「何かミスがあったのだろうか」
そう考え、POSのジャーナルログを確認しました。
すると、一度売り上げられたワインが取り消されていることが判明したのです。
違和感
ログを確認すると、
取消操作を行ったのは2階ダイニング担当のスタッフでした。
がしかし、取り消し行為を行なったPOSの位置は、3階でした。
しかし、そのスタッフは当時、2階を離れられる状況ではありませんでした。
念のため2階ダイニング担当のウェイターに状況を確認すると、
「ワインですか?問題ありませんでしたよ」
という自然な返答。
表情にも違和感はありません。
ここで私は、
単なるミスではなく、
不正の可能性を疑い始めました。
店舗構造が生んだ盲点
その店舗は3フロア構成でした。
- 1階:レセプション・バー
- 2階:メインダイニング
- 3階:ルーフトップ
お客様は食事の進行に合わせてフロアを移動する特殊なスタイルでした。
ところが会計処理ができるPOSは1階のみ。
3階担当スタッフは会計のたびに1階まで降りなければなりません。
この非効率な運用が、不正の入り口になっていました。
不正の手口
3階担当だったあるスタッフは、
自分で釣銭を用意していました。
領収書が必要なお客様に対して、
まず自分の現金で会計を済ませ、
後から1階でPOS処理を行っていたのです。
ここまでは運用上の問題はあるものの、
すぐに不正とは言えません。
問題はその後でした。
彼は、
現金会計を行ったお客様の伝票から、
高額なワインだけを取り消していたのです。
そして差額を着服していました。
発覚を遅らせた理由
通常、
商品取消を行うと取消伝票が印字されます。
ところがその店舗では、
なぜかワインだけ取消伝票が出力されない設定になっていました。
つまり、
取消が現場では見えなかったのです。
さらに悪質だったのは、
取消処理を行う際、
自分のPOS番号ではなく、
他スタッフのログイン番号を使用していたことでした。
発覚しにくいように偽装していたのです。
調査の結果
上司へ報告後、
本人との面談を実施。
証拠を提示し続けた結果、
最終的に本人は不正を認めました。
その後、
数か月分の伝票とジャーナルを洗い出し、
在籍期間中の取引を調査しました。
結果として、
被害額は数百万円に及んでいました。
不正を生んだ4つの原因
振り返ると、
不正を可能にしていた原因は明確でした。
① 非効率なオペレーション
3階で会計できない構造が抜け道を生みました。
② 個人会計を黙認していた
スタッフ個人の現金による立替会計が常態化していました。
③ 取消伝票が出ない設定
異常を発見する仕組みがありませんでした。
④ POS管理が甘かった
他人のログイン番号を利用できる状態でした。
最も大きな反省
実は、このスタッフは私が期待していた人材の一人でした。
仕事もできる。
責任感もある。
将来的には店舗の中心になってほしい。
そう考えていました。
だからこそ発覚した時のショックは大きかったのです。
しかし今振り返ると、
不正を行った本人だけを責めることはできません。
不正を可能にしてしまった環境。
管理不足。
確認不足。
それらもまた管理者の責任だったと思っています。
不正防止は性善説だけでは成り立たない
後日、
他のスタッフからこんな話を聞きました。
「よく旅行の話をしていましたよね。なんでそんなにお金があるんだろうと思っていました。」
不正をする人は、
金遣いが派手になることがあります。
もちろん決めつけは禁物です。
しかし、
責任者は現場の小さな違和感にも敏感である必要があります。
まとめ|不正は仕組みで防ぐ
この事件を通じて学んだことがあります。
不正は、
「悪い人がいたから起きた」
だけではありません。
不正を思いつき、
実行できてしまう構造があったから起きたのです。
だからこそ、
- オペレーションを見直す
- POS権限を管理する
- ジャーナルを確認する
- 複数人でチェックする
こうした仕組み作りが重要になります。
不正防止とは、
スタッフを疑うことではありません。
スタッフが不正をしなくても済む環境を作ること。
それが管理者の大切な仕事だと、私はこの経験から学びました。
