忘れられない一言
昔、忘れられない出来事がありました。
気付かせてくれたのは、エステ業界でも屈指の大手企業の女性社長。
社内では「院長先生」と呼ばれ、多くのスタッフから慕われている方でした。
その方が、あるお客様に連れられて、僕が勤めていたレストランへ来店されたのです。
ありがたいことにお店をとても気に入ってくださり、
「すごく良かったですよ。」
という言葉を残して帰られました。
感情を大きく表に出すタイプではありませんでしたが、その一言には十分な重みがありました。
店長研修で使われるレストラン
その後、その会社の店長研修の場として、何度も利用していただくことになります。
数日に分けて行われた食事会には、
各店舗の店長、
役員の皆様、
幹部の方々が来店されました。
ほとんどが女性。
17時のオープンと同時に何十名もの女性が来店される光景は、なかなか圧巻でした。
ある日、その社長が参加者へ向けてこう言いました。
「あなたたち、この人たちの笑顔をよーく見ておくのよ。」
その言葉を聞いた瞬間、
「まずい。最高の笑顔じゃないと。」
と、良い意味で緊張したのを今でも覚えています。
当たり前を少し超えてみた
その会社の本社は、お店から徒歩5分ほどの場所にありました。
そして僕たちのお店には、一つのサービスがありました。
ご予約のお客様を、ビル1階まで迎えに行くこと。
初めてのお客様は驚かれることも多く、
喜んでいただけるサービスの一つでした。
当然、その社長も役員の方々も、そのことはご存知です。
そんなある日。
予約状況に余裕がありました。
そこで僕は思いつきました。
「今日は、もっと手前で待ってみよう。」
会社からお店までの道中にある信号。
必ず通るであろうその場所で待つことにしたのです。
サプライズは失敗した…と思った
会社のビルから皆さんが出てこられました。
信号を渡ってこちらへ向かってきます。
僕は少しワクワクしていました。
きっと驚いてくれる。
喜んでくれる。
そう思っていたのです。
そして笑顔で声を掛けました。
「お待ちしておりました!」
ところが。
社長の反応は意外なほど普通でした。
笑顔はある。
でも想像していたほどではない。
「あれ?」
正直少し拍子抜けしました。
そのまま皆さんと雑談をしながら店まで歩き、その日のお食事会も無事終了。
僕は心の中で、
「思ったほど刺さらなかったな」
と感じていました。
忘れられない一言
ところが次の食事会の日。
今度は満席。
僕はオープン直前まで店内でバタバタしていました。
当然、前回のように外まで迎えに行く余裕はありません。
そして17時。
社長が来店されました。
エレベーターを降りるなり、開口一番。
「今日は待っててくれなかったのね。」
その瞬間。
頭を殴られたような衝撃を受けました。
サプライズは、もうサプライズではなかった
僕は完全に勘違いしていたのです。
前回の反応が大きくなかったから、
それほど喜んでいただけなかったのだろう。
そう勝手に思い込んでいました。
違いました。
社長は喜んでくださっていたのです。
ただ、それを大げさに表現しない方だっただけ。
そして一度体験したそのサービスを、
次からは「当たり前」として受け取っていたのです。
つまり、
僕が勝手にサービスレベルを引き上げ、
そして勝手に元へ戻してしまった。
だからこそ、
「今日は待っててくれなかったのね。」
という言葉になったのだと思います。
スタンダードは自分で作っている
その時、僕は大きなことに気付きました。
お客様が感じるサービスの基準は、
競合店が決めるのではありません。
マニュアルが決めるのでもありません。
自分たち自身が決めているのです。
一度感動していただいたこと。
一度期待を超えたこと。
それは次回から、
お客様の中では「普通」になる。
つまり、
今日の一生懸命は、明日のスタンダードになる。
ということです。
忙しいは理由にならない
あの日、
僕は忙しかった。
それは事実です。
でも本当にそれだけだったのでしょうか。
もし大切なことだと理解していたなら、
誰かにお願いできたはずです。
先に指示を出せたはずです。
つまり問題は忙しさではなく、
僕自身の認識不足でした。
あの日、
社長はそのことを教えてくれたのです。
だから挑戦をやめてはいけない
ここで誤解してほしくないことがあります。
この話をすると、
「だったら最初からやらなければ良かった」
と思う人がいます。
でもそれは違います。
サービス業において最も危険なのは、
期待を超えることをやめることです。
なぜなら、
挑戦しなければ感動は生まれないから。
挑戦した結果、
それが新しいスタンダードになる。
そしてまたその先へ挑戦する。
その繰り返しが、
サービス品質を底上げしていくのだと思います。
まとめ|感動を標準化する
サービスのスタンダードを上げる方法は、
特別なマニュアルを作ることではありません。
お客様の期待を少しだけ超えること。
そして、
その一度きりで終わらせないこと。
今日の一生懸命は、明日のスタンダードになる。
だからこそ、
忙しい日も、
余裕のある日も、
変わらず続けることが大切です。
そして何より、
「やらなければ良かった」
ではなく、
「次はどう続けるか」
を考えること。
それこそがサービス品質を底上げする、本当の方法なのだと思います。
ご参考になれば幸いです。
