忘れられない「ドンペリ事件」
僕には今でも忘れられない出来事があります。
初めて店長を任された店舗での話です。
当時勤務していたのは、Global-Diningのイタリアンレストラン「ラ・ボエム」。
ワインの品揃えも豊富で、
- フェラーリ
- ヴーヴ・クリコ
- ドン・ペリニヨン
- ドン・ペリニヨン ロゼ
- クリスタル
なども扱っていました。
とはいえ、当時の客単価は5,000〜6,000円ほど。
ドンペリは約20,000円。
ロゼは40,000円前後。
当然ながら、頻繁に出る商品ではありません。
それでも白金という土地柄、時折注文が入ることがありました。
そして、その日はやってきました。
まさかのオーダーミス
ある日、5〜6名様の団体のお客様からドンペリの注文が入りました。
担当したのはベテランウェイター。
「ドンペリ入りました!」
嬉しそうにワインセラーへ向かった彼女を見て、
「おっ、久しぶりだな」
と僕も少しテンションが上がっていました。
ところが数分後。
彼女が泣きそうな顔で走って戻ってきました。
「どうしたの?」
そう聞くと、
「……ロゼでした」
「え?」
「……開けちゃいました」
実は当時のドンペリとドンペリロゼは、暗いワインセラーの中ではラベルの色が非常に似ていました。
しかも滅多に出ない高額商品。
保管場所も高い位置。
間違いが起こる条件は揃っていたのです。
その時、僕が下した判断
えっ、お客様は?と聞くと、
一つめのグラスに注いで、ピンク色していてびっくりして、
どうしようと慌てて走って来たのだと言う。
「それはマズい!乾杯待たしているんでしょ?」
ここで僕は考えます。
通常のドンペリを改めて開けるか。
それともロゼをそのまま提供するか。
しかしロゼは約40,000円。
もし通常のドンペリを開ければ、
ロゼをグラス販売しなければなりません。
当時の感覚では、一杯5,000円以上。
客単価と同じ価格です。
売れる気がしませんでした。
そこで僕は、
「そのままロゼをドンペリの価格で提供しよう」
と判断しました。
団体のお客様は大盛り上がり。
担当ウェイターは半泣き。
とりあえず、その場は収まりました。
当時の僕が考えていたのは、
(このミスを次はどうやったら起こさないか?)
だけでした。
全くもって後悔しかありません。
今振り返ると、店長として二つの失敗をしていた
僕はここで二つの大きな失敗をしています。
お客様の目的を知ろうとしなかった
まず一つ目。
そのお客様たちは、なぜドンペリを注文したのでしょうか。
客単価5,000円台の店で、
20,000円のシャンパンを注文する。
そこには必ず理由があります。
誕生日だったのか。
昇進祝いだったのか。
接待だったのか。
仲間との特別な乾杯だったのか。
僕はそれを聞かなかった。
いや、聞こうともしなかった。
目の前のミスを処理することしか考えていなかったのです。
関係を作るチャンスを逃した
二つ目。
僕はその場を収めることしか考えていませんでした。
でも本来であれば、
お客様と一緒に笑い話に変えられたかもしれません。
例えば、
「本当に申し訳ありません」
とお詫びした上で、
ロゼをそのまま楽しんでいただき、
さらに通常のドンペリもサービス価格で提案する。
そんな方法もあったはずです。
そうすれば、
担当スタッフも救われる。
原価的な損失も減る。
そして何より、
お客様との関係が生まれる。
僕はそこまで考えられませんでした。
問題解決だけでは、お客様はハッピーにならない
当時の僕は、
ミスを解決すること
だけが店長の仕事だと思っていました。
でも本当は違います。
レストランの価値は、
料理やワインだけで作られるものではありません。
人と人との関係。
会話。
空気。
その時間全体で作られます。
だから、
ミスが起きたとしても、
そこから信頼関係を築けることがあります。
むしろミスがあったからこそ、
強い関係が生まれることさえあります。
ミスの向こう側を見る
今の僕なら、
まずお客様に話しかけると思います。
「今日はどういったお集まりなんですか?」
と。
その理由を知った上で、
どうしたら今日という日が良い思い出になるかを考えます。
当時の僕は、
ミスそのものしか見ていませんでした。
でも本来見るべきだったのは、
ミスの向こう側にいるお客様だったのです。
まとめ|店長として学んだこと
この出来事から20年以上経ちます。
今でも鮮明に覚えています。
なぜなら、
ワインを間違えたことよりも、
お客様との関係を作る機会を逃したことの方が悔しかったからです。
店長の仕事は、
問題を解決することだけではありません。
その出来事を通じて、
お客様もスタッフも幸せになる着地点を探すこと。
あの日のドンペリ事件は、
そんなことを教えてくれた忘れられない失敗でした。
ご参考になれば幸いです。
